AMANOIWATO vol.1

九州高千穂。山深い神聖な秘境のさらに奥深くに、目印もなく隠された険しい山道を登ると秘密の洞窟がある。

古神道より重要にされるらしいこの謎の洞穴は、夏至の朝日に御来光が一直線に射し込むそうだ。

 

縁があり案内されたのが11年前。

入った瞬間、完全に空気が変わる。

一種の覚悟を決めないと先へは進めない、かなり緊張感ある参道を進む。

 

数十メートル進むと、光が届く最後の場所に鳥居があり、ここで参拝をして下山する予定だった。

ここまで来るのにも、遠くて長い道のりで大冒険だった。誰もが気軽に来れる場所ではない事は当然わかる。

 

参拝所に一本のロウソクがあるので火を灯す。隣では案内人が祝詞をあげている。

鳥居の先には岩場の道がまだまだ先に続いているのが見え、好奇心の強さでロウソクを片手に持ち先を下っていく。

先は暗闇だが、ロウソクの火に照らされたオレンジ色のような岩に、自然の造形美とは思えない人工的な芸術作品のような幾何学的なラインが浮かびあがった。

 

これより先に人間が入ってはならない強烈な危険信号の音が耳鳴りする。

沖縄の聖地にある御嶽のように神人しか入ってはならない場所をいくつか知っている。

吸い込まれるように闇の方へ進んでいくと、後ろから案内人は聖域へは立入らないよう助言するが、圧倒的な誘惑に耐えきれず結局は彼も着いて来る。

 

一つ一つの岩がそれぞれ不思議かつ完璧な模様を主張し目に飛び込んでくるので、さらにその続きを見たくなりどんどん岩場を下っていくと、行き止まりの岩の門のような場所にたどり着く。

もう帰ろう、という声が後ろから聞こえたような気がするが、完全に覚醒状態に入り、大きな岩の下をくぐって完全に真っ暗闇の領域に入る。

 

次元がさらに変わったような、より一層の緊張感を強いられる漆黒の修験道の岩下りが続く。

一寸先は闇で、振り返っても闇だ。

片手に持ったロウソクのわずかな光が呪術的な雰囲気を讃えているが、この炎がいて深い安心感もある。

 

どのくらい進んだだろうか。

突風が吹きロウソクが突然消えることもあるかもしれない恐怖と闘いながら、この謎の産道を奥深く進んでいると、もうすでに自分はこの世には存在しておらず、元の世界へ帰ることができないような錯覚に陥る。

それでもいい、と思えるようなもう一人の声、その魂を感じながら未知のゾーンへ自動的に歩んで行く。

 

しばらくすると永遠のような道のりを遮る行き止まりに突き当たった。

これで元の世界へ戻れるんだと、正直少しホッとした。その瞬間、目を疑うような光景が目の前、正確には目の下に現れたのだ。

 

それは大きな垂直な穴だった。

穴の下を見ようとするが、どこまでも深く大きく拡がっている気配が感じられ恐ろしくて近づくこともままならない。

意を決し、死を覚悟で近づきロウソクを照らすが、その先は巨大な空間が無音の警告音とともにこだまし、炎は上を照らすばかりで真下が見えない。完全な漆黒だった。

ロウソクもあとわずかになっていたので、これ以上進むことは出来ない。

光があったとしても、あの時の自分にはここまでが限界だった。

 

あれから10年以上の間、あのブラックホールの先がどうなっているのか、ふとした時に考えることがしばしばあった。

もしかすると夢だったのかも知れないとも思い、当時の案内人に確認をしたこともあった。

何れにしても迂闊に話題にするようなものでもなく、今生ではもう二度と行くことはないかも知れないとも考えていたのだ。

 

つづく