AMANOIWATO vol.4

スローモーションの無重力状態から突然、閃光が走り身体に衝撃が起きた。

洞穴を垂直に落下して、まず片側の足が岩に当たった後、尻もちをつく形で巨石に激突したようだ。

 

だが不死身かのごとくそれほど痛みもなく、すかさず立ち上がって上方にいる友人たちに無事を伝えた。

落差は思っていたほど深くはなかったが、それでも6メートルの垂直の岸壁だ。這い上ろうとしても、この付近は水たまりも多くて岩もキラキラと輝き、ツルツルと滑ってどうにも登ることは出来そうにない。

 

転倒した時に衣服はびっしょりと濡れ、そもそも洞窟内では吐く息は白いほど寒く、その上に、もともと汗を流して山を登ってきたため既に全身の汗は氷のように冷え切って身体はブルブルと震えていた。

岩をよじ登ろうとしても、腰のあたりに力が入らず、徐々に痛みが増してきて、とうとう立ち上がることさえ出来なくなってしまった。

 

上で待機する友人たちもこの寒さで一旦引き上げることになり、投げ落とされた一枚のシャツを受け取って身体に羽織った。

これから一行が洞窟を引き返して下山をして、ロープやはしごを用意できる場所までたどり着き、またここまで戻って来るには最低でも数時間はかかるだろう。

その間、暗闇の中で一人で待つことになるが、すでに凍えそうなこの状態で、それまで体力が持つだろうか。

 

また彼らが一体どのような方法で救出しようとしているのか、そして新たな事故も起きずにうまく成功するのかどうかも分からない。

もしもそのまま帰ってこなかった場合、このまま誰にも発見されずに美しい白骨死体になるだろう。

しかし、そのような事態にならない素晴らしい友情のありがたみを感じながら、幸いなことに穴に飛び降りる直前に岩に突き刺した蝋燭が、高く天井の方からゆらゆらと照らすその光の反射を眺めながら、深い瞑想の境地に浸った。

 

落下した洞窟の中をよくよく観察してみると、それまでの岩の色とその模様とは全く違う、黒光りしたコブシ大のボコボコとした有機的で立体的な連続した地獄のように圧倒しながらも、神聖な幾何学模様のその壁を両脇に、白い一筋の道がその先へまだまだ続いていた。

それは神殿の先にある奥の院の、またその先にある隠された道の発見だった。

 

夢を見ているかのような、この未知で異次元のゾーンに足を踏み入れた事は確かだが、これ以上先へ進むことは無理だった。

立つことさえ出来ないどころか、気力も体力も低下して、したたり落ち続ける雫によって衣服も重く冷たくなっている。

 

そのうち、フッと蝋燭の灯りが消え去り、闇そのものの中にただ一人佇んでいる自分がいた。

その自分というものの存在とは一体何だったのか、という思いと同時に、ここがすでに異界の地で自分の命が終わっている錯覚さえ出てきた。

 

今の自分はただじっと耐えることしか出来ず、待つことしか出来ない。

この先の結末の想像も出来ず、再びまた外に出れる気配すら感じられない。

闇の中で様々な想念が沸き起こってくる。

永遠に出ることが出来ない恐怖もあれば、母の子宮の中にいるような安心感もある。

今は、ただただ呼吸に集中して心を落ち着かせるしかない。

 

身体の冷たさは限界に達していて、自動的に自分の呼吸の速度が速くなっていく。

必死に体温を上げようとするこの呼吸は、以前に教わっていた古代インドに伝わる「火の呼吸」と呼ばれる動きへと連動した。

無敵の格闘家であったヒクソン・グレイシーが実践していたこの呼吸法は、体をフイゴやポンプのように連続して速い腹式呼吸を繰り返すもので、これによって、あの冷たい洞窟の中でも体温と気力を保ち続けることが出来たのだった。

 

つづく

 

次回の記事は2018/08/03(FRI)に更新です!

 

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