南米ツアー雑記 vol.10

それは一緒の臨死体験とも言える。実際、ある者は幽体離脱をして精霊の世界や死後の世界を浮遊する事もあるらしい。

 

20代にやっていたバンドのドラマーが、当時持病の喘息を拗らせて呼吸停止し、救急車で運ばれ緊急治療室で電気ショックにより蘇生したことがある。幸いなことに数日間の意識不明から帰還し、面会謝絶が解けてすぐに見舞いに行くと、彼はまだ安静の身ながらも臨死体験で見たヴィジョンの話、ICUで自身や医者たちを真上から見下ろした幽体離脱の体験を熱く語った。
退院後、彼はその神秘的な体験を理解するため脳科学の書物を漁り、最終的にチベット死者の本に辿り着いた。

 

科学はこれを解明している。生まれた時、そして死ぬ時、脳中心部にある松果体からある種の脳内物質が分泌されるが、シャーマンの使う植物にも同じ物質が含まれている。この物質は我々人間を含む多くの生命に宿っており、夢や第六感との関係も指摘されている。

 

赤ん坊は完全な悟りの状態でこの世に誕生し、テレパシーも使うが、成長とともにその感覚を失い、やがてはその感覚について自ら否定する我々現代人となる。そして死ぬ間際になり再びもとにいた神秘の世界に戻っていく。これは紛れもない事実である。

 

アフリカのピグミー族のある部族は、成人の儀式でイボガという植物を摂取し、48時間の意識不明状態に入り、そこで神秘の世界、精霊の世界を完全に理解してからこの世に戻ってきて大人として暮らしていくという。その社会は一体どういうものなのか、とても興味が尽きない。
滞在したアマゾンの集落では、48時間という驚異的な長さではないにせよ、ほぼ毎晩夜21時頃から始まり深夜まで行われた。
この異次元の世界では、明日という朝はもうやってこないと思うほど時計の存在しない永遠の暗闇が続く。後に文明の利器で測ると6時間ほどで元の世界に戻って来ていた。

 

儀式がはじまる時ロウソクの火が消され、暗がりの中で聖杯が手渡される。
毎晩何度繰り返しても、決死の覚悟を決める時には厳かな緊張感を伴う。

 

哲学者の多くは、我々の生きている現実世界は幻だと唱えるが、おそらく殆どの人はその本意を死んだ瞬間に知ることになるのだろう。
アヤワスカを使った死の儀式を通じ、この普遍的な秘密を自分の身体を超え魂を通じて知覚することになる。
儀式が終わり現実世界に戻ってくると、それは夢だったかのように忘れてしまいそうになるが、毎晩毎夜繰り返すことによって、魂の原郷が真実の秘境として絶えず存在している事をはっきり感受し認識させられる。

 

薬草茶を飲んだ後、目を閉じ横になっているとやがてシャーマンとその一家が歌を歌いはじめた。イカロと呼ばれる聖歌で、僕が訪ねた部族の歌は事前に調べたり友人が録音したものなどと少し違った雰囲気で、3人の歌声がバラバラに始まり、リズムも歌詞も音階も全てがポリフォニックで、何層もの次元がレイヤーのように折り重り往き来する。かと思うと突然ハーモニーがシンクロしたり、ユニゾンしたり、それぞれの歌が付かず離れず漂い宙を舞っていた。

これは凄い、、電気が走り感激しながらも、身体は排毒のために嗚咽を繰り返す。

 

このランダムだが秩序も保つ絶妙なポリフォニー唱歌は僕がコレクションしている中国雲南省のある山岳民族のドキュメント映像ととてもよく似た形式で、その共通点も衝撃的だ。独特な鮮やかな色の組み合わせの民族衣装や刺繍の文様もそっくりで同じ文化圏であることをはっきり認識した。何より僕たちは同じDNAを持つモンゴロイドなのだ。

 

儀式の最中、これまでの人生、楽しかったこと、さびしかったこと、たわいもないこと、そして愚かな行いの数々が、目の前を通り過ぎてゆき、現実と呼ばれるとてつもなく悲しい社会とその落し子である自分、またその根底では一つに繋がる我々全員の魂に直面し、その悲しみと辛さで涙が溢れ止まらなくなった。そして同時に、その悲しさの中で弱くも逞しく生き続ける生命の連鎖の奇跡とその喜びを噛みしめる。

 

この儀式の場面においては愚かな間違いに簡単に気付くことが出来るし、反省することは簡単な事だ。
では一体、これからどうして生きていけば良いのか。この解答の連続して続く何層ものベールを順番に剥がすために、毎晩の儀式があるように思えた。
滞在先のシャーマン一家は日常生活として毎晩の眠りにつく前に儀式を行っている。彼らの生活様式を垣間見ることは、答えの補充となるのだろう。

 

つづく…

 

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