南米ツアー雑記 vol.3

コパカバーナから1時間かけてタクシーを走らせ、ある山の麓に着いた。運転手は指定した住所の入り口にある門のインターホンを押し連絡を取り、門が開かれた。

山道を登ると、途中に受付があって簡単な説明を受ける。ところどころ岩がゴロゴロしていて日本でよく登るようなピラミッド的な小さな山とまったく同じ心地良さを感じながら登り進むと、すぐに山頂に辿り着いた。どうやら僕が最後の到着者だったようで、60人程が男女に分かれて整列をはじめていた。日本から一人で初めて参加しに来たという事で、一緒に登ってきた人が色々と詳しく教えてくれる。今日は瞑想の集会で、途中に暗くなり沈黙になる事や、気分が悪くなった場合に行く浄化の場所など。
列の前の方では、グラスに茶色い液体が注がれ、皆順番に飲んでいた。ようやく自分の番になりゆっくりと味わいながら飲む。苦味と渋みと酸味が効いた強烈なエグ味が口の中に拡がった。

どうやら今夜は2~3回これを飲むらしい。

 

白装束の信者達は祭壇に火を灯して、それを中心に何層にも円陣に並び、男女は向かい合わせに分かれて皆一斉に歌を歌い始めた。サークルの前列ではギターやベース、原住民的な小さなマラカスや竹笛などで伴奏をしている。僕はまったく歌を知らなかったのでずっとそれを聴いていた。

 

僕は音楽を聴くのが本当に好きだし、生き甲斐だ。ジャンルは無関係にどんな音楽でも境なく聴く姿勢でいるつもりだが、聴いていてまったく受け付けないものも多々あり、興味のないものもかなりハッキリしている。職業病のようなものだと思うが、その音楽の構造や演奏者のレベル、作曲者や編曲者の意図や意識までが見えてくる。
食べ物に例えるが、僕は昔は好き嫌いなく何でも食べていて、一人暮らしになるとジャンクフードも頻繁に食べていたが、瞑想を習ったきっかけに精進料理や菜食料理に転換し、それが12年も継続すると、自然の食べ物と大量生産の加工食品の違いが明確に分かるようになった。好き嫌いとは別の意味で、身体や脳が自然の食物に対して嬉しい反応をする。化学調味料の場合は舌がビリビリして最初はびっくりするが脳は美味しいと指令を送ってきて麻薬的に食べてしまうのも面白い反応で、それに対して悪ノリして食べ続けるときもあるが、必ず後で身体や脳の働きが少しおかしくなることも観察できる。そんな風に、音に対しても栄養分のように何らかの要素を自然に判別できるようになっている。もちろん好みと言ってしまえばそれまでなのだが。

 

奏でられる音楽は、伴奏は問題ないレベルの演奏で、曲は西洋の白人音楽によくあるフォークソングのような雰囲気。ノーマルでポピュラーなコード進行だ。賛美歌やグレゴリオ聖歌のようなものだったらずっと聴いていられると思ったが、ここでの音楽はほぼダイアトニックなイオニアンやエオリアンスケールで構成されていて、長調と短調の童謡のようなシンプルでわかりやすい西洋音楽。聴いていて問題はないが、こんな感じの曲が今晩ずっと続くのはちょっと厳しいなと内心不安になっていた。ちょうどそう思ったとき、何だかそわそわしてきて、この場所にはいられない気持ちになったので、集会からすかさず抜け出し、説明されていた浄化の場所へ移った。

 

アヤワスカを飲むと初心者は数十分後に気分が悪くなって吐いたり下痢をしたりすると聞いていたが、まだ15分くらいしか経ってない。なんとなく集団で歌ってる雰囲気から脱出し静かな所でゆっくりしたくて抜け出したのだが、すぐに教団の人がやってきて森のような暗がりに案内してくれた。しかしここに来てどうやら本当に気分が悪くなったようで、身体の様子がおかしい。
「大丈夫かい?どこから来たの?初めてなの?」と話しかけてくれるが、返事をするのも精一杯になっている自分がいる。そして彼の顔を見ることも出来なくなり、地面を見るとそれは地面ではないダークな漆黒の闇の空間が広がった。その瞬間、暗闇の中心から小さな光が現れたかと思うと、神聖な幾何学模様が目の前で展開され、蛍光色のような極彩色の模様がハッキリと何かの意味を現すかのようにただ存在している。模様は真実を語りかけてくるのだが、それは言葉を使わないメッセージだった。スゴイ、、としか思えなかったが、もう自分が何者だったか、ここは何処でいつなのか、これまで何をしていてこれから何処に向かうのか、立っているのか寝ているのかも分からず、そもそも身体も空間も時間も全てを失い、自分の知識や記憶も何もかもが消滅していた。

 

自我や記憶がまだほんの少しばかり残っていたのだろうか。あまりにも混乱して気持ち悪く、、そうだ、指を口に入れて吐けば良いんだ。手を口にやるがゆっくりもとの位置に戻され、突然耳元で声がした。「手を入れてはいけないよ。すべてを自然に任せるんだ。大丈夫?」そう言って優しく身体をさすってくれた。
言語というものがほとんど理解できない状態だったが、何とか気を取り戻し「ありがとう、、私は、、とても、、変、、」それが精一杯の返答で、自分の存在を確認しようと目を見開き両手を見ると、幾何学模様の中から手と指の影が浮かび上がってきた。

ああ、自分の身体があって良かった。

だが両手は小刻みに震えていて、すべての関節が身体の内側へと自動的に畳み込まれるように、まるで朝顔がしぼんだようになっていた。慌てて縮こまった手を広げようとしても、痙攣しながらすぐしおれてしまう。「ううう、、」すべてがおかしい、と思った瞬間またヴィジョンが現れ、同時に激しい嘔吐を繰り返した。

 

つづく…

 

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