南米ツアー雑記 vol.5

合唱と演奏はまだ続いていた。演奏については奏者それぞれのミスノートやリズムのズレがはっきり見える。実際の普段感じるテンポ感とは違って、ものすごい精密なグリッド、細分化した音の隙間がグラフィカルに見えるように感じる。普段の練習や演奏で集中した時に発揮する能力が数倍に拡張した。
普段の自分の演奏でのミスやズレは許されない醜いものに思うが、今彼らの人間的なそれらは温かみがあり、愛おしささえ感じる。純真な祈り、それが魂に伝わってきて、それが全てだった。

 

合奏の中で、ひときわ心に沁みる竹笛の音がする。尺八だ。奏者の姿はこちらから見えないが、自由な旋律で宙を舞ったり合唱に絡みついたり、自在な音の風が完璧な技術で演奏されている。この音には随分安らぎと勇気を与えてもらった。
しかし、自分の状態が落ち着き、そろそろ音楽が終わって欲しい、今自分の好む音を聴いたらどんな風だろう、と考えたとき、パッと音が止まり、明かりが全て消えた。全ては完璧なタイミングで起きる、そんな意味が込められているように。

 

暗闇の静寂の時間が始まった。瞑想の時間だ。僕はヴィパッサナー瞑想で習った方法を使った自分に最適なスタイルがあり、行った。
新しい感覚、チャクラの感覚を存分に味わい、様々な奇跡を思い出していた。これまで出会ってきた人たち、忘れていたエピソード、愛おしさを感じながら流れに身を任せていた。
この頃、自分に立ち憚かる壁のようなものがあった。殻に閉じ込められているような感覚もあった。自分の生き方、役割、そういうものがよく分かっていなかった。何故、自分は音楽をやってるのだろうか。好きだから?楽しいから?それ以上の苦しみや犠牲をとことん味わって生きるこの夢中の、更にその先に辿り着きたい。螺旋状の終わりのない道を上っていくためには、今のこの寄り道もとても大切な時間に思えた。

 

物事には段階があるが、この時の自分のレベルにおいて自分が持っている質問に対し、アヤワスカの精霊の力を借りて、大宇宙と自分の無意識とも言える小宇宙をコネクトし、チャクラを通じて回答を得ることが出来た。これは言葉ではなかった。言語に変換することも出来るかもしれないがここでは差し控えたい。
本当は思い出しただけに過ぎないのかもしれないが、人生における大収穫だ。脳の淀んでいた空気を開放して新鮮な空気を大量に送り込んだようなものだ。

 

突然、明かりがつき、また再び液体が注がれたグラスを受け取った。あれだけ地獄の苦しみを味わったのにも関わらず、何の迷いもなく列に加わった。
喉元過ぎれば熱さを忘れると言うのはまさにこのことだ。
合唱が再開され、しばらくするとまた気分が悪くなり、再び浄化の場所で嘔吐を繰り返す。最初の時よりは酷くはないが、またしてもやってしまった感で懺悔と反省の時間を苦しんだ。

 

時間感覚を完全に失い、出口の見えない暗闇を彷徨いながら、これまでの人生で蓄積した過ちが走馬灯のように駆け巡る。その一つ一つを祈るように涙を流し、込み上げてくる苦しみと辛さを体感し経験しながら、これまでの人生で蓄積したカラダにこびりついた毒素を一生懸命に排出しているんだと気付くと、おろそかにしていたこの自分のカラダに謝りたくなるような、愛おしさと慈悲を感じた。物質的な毒素と同時に精神的な毒素、すなわち過去のトラウマやネガティブな感情も排出している実感がある。このように古代インカ時代から伝わる神秘の植物の力で、肉体と魂を救ってもらえる巡り合わせに、涙を流し、生きているという奇跡が如何に幸せなのかと、身を以て、心を以って思い知った。
この浄化の場所にはほとんど人が来ていないようだった。この日、初心者は僕だけだったようで、他の人たちは何度も経験する信者で、すでに充分な浄化がされ吐いたり気持ち悪くなったりはしないようだ。

 

式は深夜中、合唱と沈黙の瞑想を繰り返し、最終的には全員で踊り始めた。全てが終わった時、感極まった人たちは声を上げながら式場の中をぐるぐると走り周ったり抱き合ったりしていた。そこには小さな子供から老人までがいた。僕も目があう人、出会う人みんなと抱擁をする。彼、彼女ら全員の目はキラキラと輝いていて、赤ん坊を抱いているかのような柔らかく心地よいオーラに包まれ、それぞれとハートの温もり同士の一体感を味わった。

 

明け方まで、参加者同士ゆっくり話し合ったり、リラックスした時間を過ごした。あの美しい旋律を奏でた尺八奏者とも知り合った。彼はイギリスからやって来ていてパートナーは日本人の女性だった。他にも歌手として活動をする黒人女性が素晴らしい歌を披露してくれたり、ビシッとスーツ姿に着替えた正義の弁護士、医者、ビジネスマン、色んな人がいたが、毎月必ずここに集まり心身共にクリーンにしてそれぞれの社会生活に戻っていると語った。より良い世界にするために。
ブラジルにおいては正月と盆と祭りが同時に起きるようなカーニバル期間後の新たなスタートを切る瞑想の集会だった事もあり、普段よりアヤワスカは特別強力だったようだ。コパカバーナまで送ってくれた紳士は「辛かっただろうが、今日が君にとって初体験だった事はとても幸運だよ。おめでとう!」と言った。

 

早朝、寝静まっているスザーノの自宅に戻り、まずシャワーを浴びた。当時ドレッドヘアだった大きな頭を洗っていると、水が浸み込み重くなった髪の固まりが急に気になり、思い立ってすぐにハサミで切り外した。
まだアヤワスカの感覚が残っていたので、聴きたい音楽をヘッドフォンで聴くと、音の細かいひだに隠されたメッセージが読み解け、様々な発見を繰り返した。この頃完成した自分のアルバム『Emeralda』を改めて聴き直して体験してみると、作品自体がこの先の自分が進む道を示している事実が見え、潜在意識の持つ力、その時空を超えた神秘さと完璧さに驚いた。

 

つづく…

 

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