南米ツアー雑記 vol.8

2013年の秋、PARAのツアーで東京公演のあと、大阪シャングリラ・京都メトロの2日連続公演があった。

大阪公演後に食事へ行き遊びに出かけたが、会場近くのパーキングに停めた車に戻ると、ドアは開いてて積んでいた楽器や機材が失くなっていた。

 

ギターが3本、高価なマイクやケーブルにヴィンテージの機材など、再び買い揃えると総額100万円の損失だったが、意外なくらいに動揺は少なかった。

もちろん金銭的なショックは大きいのだが、それより翌日の京都公演とその後のソロツアーをスムーズに行う事に頭がいっぱいで、長年の愛用のギターについてはもう想い出としてきっぱり忘れることにした。

感情的になって探しはじめると、演奏する音にも悪影響する。

 

万が一のためにスペアギターがあるので、急遽自宅へ取りに戻った。

本番ギリギリの遅刻だったが、昨夜とは違う青色のテスコスペクトラム5を弾いていても、バンドのメンバー誰もが気がつかない。

演奏ムードにも響くと思い、しばらく盗まれたことは伏せておいた。

 

ちなみにこの日に会場へ向かう途中、高速出口でトラックに後ろから追突された。開演に間に合うようかなり急いでいたので、事故とせず許してそのまま向かったが、悪いことは重なるというのは本当だ。

 

しかし不思議なことに奇跡も起きる。

追突された直後に電話が鳴った。数日前の東京公演を観に来ていたギターや機材を作る友人から、彼のギターを使わないかと連絡が入ったのだ。彼はもちろん誰もギターを盗まれたことは知らない。このギターは性能が良すぎて高価なため、レコーディングで使用している。

 

失ったものに未練を絶ち、探すことはしなかったが、しばらくして知人を通じネットオークション上に僕のものと思われるギターが出品されていると連絡が入った。

出品者はギターの傷を丁寧に写真で説明していたので、間違いなく自分のものと判明し、友人から連絡を取ってもらった。

 

友人によると、出品者はリサイクルショップなどでギターを仕入れてはネットオークションで転売するビジネスをしており、尼崎のリサイクルショップでジャンク品として売られていたものを購入したらしい。同時に盗まれたナイロン弦のギターも売られているという。

未練を絶ったとは言え、こうなると放っておくわけにもいかなくなった。

 

出品者と話すと、購入した以上は現在の所有者は彼であり、商売なので希望落札価格で購入して欲しいと主張した。

多くの機材を失い、以前の事故の損失とガードレールの補修費用などで、経済的には盗まれたギターを再度購入することは困難だった。

世知辛さを思いながら電話を切った。

 

盗品を売っているリサイクルショップを訪れた。

成り行き上、事前に盗難届けを出さなければならず、そのまま刑事も同行した。

店頭には自分のギターが販売されていた。

 

刑事と共に店員に事情を説明すると、盗難された数日後にある人物が売りにきたことも判明した。だがギター以外に盗まれていた機材については覚えていないと言う。

しかし、その説明には不信が残る。ギターケースに入れていたビデオカメラやレコーダーについて何も知らないと言うのに、一緒に入れていた自分のi podはレジカウンター後方に置いてあったのだ。それをみつけた時、一緒にあった譜面についてたずねると、毎日たくさんの買取があり忘れたが処分したかも知れないと挙動不審に説明した。

 

その後パンチパーマの店長が来て「この辺は盗難品が出回るのはよくあることで、こちらも一々対処出来ない。古物の商法で盗難品の場合は持ち主に返す義務があるのは知ってるが、こっちが購入した以上は法的には所有権はこちらにある。特別に3割引で値引きしてやる。返して欲しいというのなら法廷で争おうじゃないか。」と横柄な態度で冷淡に言い放つと、白いシャコタン車に乗り込んで去って行った。

 

刑事も刑事で、書類を作成する事だけが仕事で、盗難品を売りに来た人物の身分証明証が本物かどうかの立証も難しいと話して、それ以上捜査はしなかった。

 

世の中これが普通の事なのだろう。もっと醜い事は探さずとも山ほどある。

思いがけず、いちど失くしたものがこのような形で再び現れてくる事により、人の世知辛い商魂のようなものに触れ、自分を失う程動揺してしまった。

こんな気持ちになるなら、失ったままで良かったのに、。しかし、これが現実なのだ。

 

これまで培ってきた瞑想や座禅、南米での神聖な経験は、何事もなかったように消え去っていた。

自分の中に潜んでいる人間不信の塊りがむくむく膨らみ上がってきて、手に負えない制御不能の自暴自棄に陥ってしまった。

同時にプライベートな問題も悪化し、信じるものは何一つないように自分自身を痛めつけ最終的に心筋梗塞となり、声も出せず身体が硬直して息が出来なくなったその時、自分の人生は終わったと観念した。

 

つづく…

 

次回南米ツアー雑記vol.9は2018/06/15(FRI)に更新です!

 

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